第11話「オレの弱さを」





『わぁー!』


『まだ起きてたの?』
『眠れなくて。幸くんも?』
『説得するなんて言ってたけど…ホントにできんのかね』
『もし、できなかったら…』
『そのときは降板かな』
『そんな!5人一緒に、ここまでがんばってきたのに』

『衣装も無駄になる。全く…何やってんだ。あのバカは』

『天馬くん!あ…』

『ただいま』


『冷てぇ』

『だいじょぶ?』
『てんまいたそ~』
『男前になったじゃん』
「それで、お父さんとの話はどうなったの?」
『見ての通り、思いっきり殴られた』
『勝手に劇団に入ったせい?』

『いや、無断で映画のオファー蹴ったから。それについては謝って…そのあと真剣に話し合って、説得してきた。オレの役者人生において、この舞台は絶対に必要なステップなんだ』
「それって…舞台経験がないから?」
『いや。みんなに話しておきたいことがある』
『何?』
『オレは…小学生のときに、学芸会で生まれて初めて舞台に立ったんだ』


『その頃にはもう子役として映画やドラマには出てたから』

『学芸会の舞台なんて、なんてことないはずだった。それなのに…』

『頭が真っ白になって…セリフが飛んだ』

『オレは何も言えず棒立ちになって』

『舞台も客席も静まり返った』


『幕が下りるまでの時間が、永遠にも感じられた』

『仕事が忙しかったからとか周りにフォローされたけども、あんな失敗は仕事でもしたことがない。初めて味わった屈辱だった』

『それ以来、舞台のオファーが来ても怖くなって受けられなかった。舞台に立つだけで、あの時の気持ちが蘇ってくる』

「緊張しちゃうとか?」
『緊張というよりは…怖い。臆病なのかもしれない』

『怖い?』
『天馬くんが?』

『映画やドラマは最高のカットが撮れるまで、何度でも芝居に挑める。こだわりぬいた完璧で最高のオレだけを見せられる。でも…舞台で自分が見せられる演技は、その時その時一度だけだ。学芸会の本番でそれを意識したら、途端に怖くなった』

「そっか…天馬くんは、いつだってお客さんに最高の芝居を届けたいんだね。けど。それは臆病なんじゃなくて、プロ意識が高いんだよ。役者として、とても立派なことだと思う」

『それでもオレは…どうしてもこの恐怖を克服したい。みんなと…同じ舞台に立ちたい』
『天馬くん』
『テンテン…』

『何言ってんだポンコツ役者。帰ってきたんだから、降ろしてやるわけないじゃん。そもそもこの舞台、リーダーの天馬がいないと始まら…』

『何その顔!』
『お前…天馬って呼べるんだな』
『そこ!?』

『テンテン!そんなの一緒に決まってんじゃん。オレらトモダチ、だし?』

『そうだよ。天馬くんのおかげで、ここまで芝居が上達したんだから』

『てんま。勇気が出るように、ハイパーさんかくあげる~!』
『どこから持って来た!返して来い!』
『え~』
『ハハハハ…』

『みんな…ありがとう。改めてよろしくな、幸』

『は?幸!?キモ』

『な…!お前が先に』
『何の話?ポンコツ役者』

『天馬くんなら、きっと克服できるよ』

『ああ』

「確かに、舞台はこだわった完璧なものにはできないかもしれない。でも、最高のものはできるよ」
『どういう意味だ』
「きっと舞台に立てばわかる」

『テンテンのためにも、チケット売らないとね』
『チケットにこれつける?』
『邪魔』
『え~』
『ハハハハ…』

『MANKAIカンパニー!新生夏組公演、近日上演だよ!』

『さんかくあげる~』

『アラビアンナイトをモチーフにしたコメディ劇です。よろしくお願いします。よろしくお願いします』

「ねえ。あの子、皇天馬に似てない?」
「え?そう?」

『よろー』
『いりますか~?』
『悪い。別の場所で配ってくる』

『おけー。ここはすみーとオレに、任せてよん』

『MANKAIカンパニーです。よろしくお願いします』

『Waterme!我が水を求めて、近日上演!』

「あれ、瑠璃川?」
「ホントだ、瑠璃川じゃん」

「お前まだ女の格好してんのかよ」
「マジウケる。似合ってんじゃん」
「ホント、名前を裏切らないよな」


「で、何?」
「女装カフェのビラ撒き?」
『ちょ…ちょっとなんですか』
『椋。いいから』
『幸くん』


「もしかして女装友達?」
「ハハハハハハ!」
「ウケる!やっぱり類は友を呼…」

『女装カフェじゃなくて、お芝居。演劇公演のチラシ』

「演…劇?」
『そう』



『今宵も語って聞かせましょう。めくるめく、千の物語のその一つ』

「なっ…」

「なんだよ」
『ていう感じのお芝居』

『はい。これあげるから。千秋楽絶対来てね』

「まあ、演劇なら?」
「あ…うん。女装カフェじゃないなら」

「アリ…」
「アリだな」
『よろしく』

『幸くん』
『ちょっと休憩しよっか』
『う…うん』



『やっぱり…幸くんはかっこいいね』

『はぁ?どこが』

『さっきも』
『あれは…GOD座のファンサを真似しただけ』
『うん。でもかっこよかった』

『かっこよかったよ』


『ちょっと、こっち来い』
『ん』


『ああいう時に堂々としてられるなんてさ。幸くんのかっこよさは、ボクの憧れだよ』
『もう…やめろって。わかったから』
『うん』
『アリガト』
『うん。お芝居、がんばろうね』
『当たり前』

『ん?』

『はーい』

『テンテン。どしたの?』
『公式サイトに…オレの写真も載せてくれ』
『えっ!?いーの?』
『ああ』

『皇天馬って書いちゃうよ』
『ああ。それでいい』

『じゃあ、ちょっぱやで!』


『っし』

『これで更新っと』

「監督ー!大変です!」

「支配人。どうかしたんですか?」

「それが…突然チケットの申し込みが殺到して!あっという間に完売しました!」

「完売!?」
「ほんの10分ほどで、残っていた席全部SOLD OUTです!千秋楽も満席です!」
『それってもしかして』

『さんかく増えてる』

『だから最初からこうしとけばよかったんだよ。あのバカ』

「はい、MANKAIカンパニーです。え!?取材ですか!?あーえぇと…ゲネプロの詳細は、後ほどファックスで!はい!よろしくお願いします!」

「もしもし。はい!あっ。ゲネプロの案内でしたら、改めてファックスでお送りします」
『なんかすごいことになってんね』
『電話鳴りっぱなし』

『支配人おおあわて』

「報道陣が来ることになりそうだね。とにかく。ゲネプロ目指して、最後の調整がんばろう」




「映画にドラマに引っ張りだこの皇天馬が、いま舞台をやるとはね」
「満を持してと、も言えるかもしれないな」

「なんにしろ、楽しみだ」

『ヤッベー…カメラだらけじゃん』

『こういうの、テレビで見たことある』
『人がいっぱ~い』

『いつもこんな感じ?聞いてんの?またポンコツに戻ってんじゃん』
『ああ…』

「天馬くん…大丈夫?」

「みなさん!そろそろお願いします!」

「あ、はい!みんな準備して!天馬くんも」

「本日はMANKAIカンパニー夏組公演Water Me!我らが水を求めてのゲネプロ公演にご来場いただきまして、誠にありがとうございます」

「ただいまより、開演いたします」


『今宵も語って聞かせましょう。めくるめく、千の物語のその一つ。彼の名はアリババ。億万長者を夢見る、働き者の貧乏青年』

『そして私は』
『あ…』


『あ…教えてくれ!シェヘラザード。幻の楽園オアシスはどこにあるんだ?』
『では、今宵も語りましょう。昔々、とある国に』

『ま…前置きが長い!三行で!』

『アラジン。魔法のランプ。魔法使い』


『お前!シンドバッドのくせに、黄金のありかとか知らないのかよ!』

『お…大人になりなよアリババ。幻の楽園なんてないんだよ。一発逆転で、億万長者になんか慣れないんだって。真面目に働け』

(みんな、天馬くんが気になって集中できてない)


(シェヘラザードがアリババに真実を告白する、重要な場面)

『ここまで引き延ばしたけど、もうどうしようもないし。王のハーレムに入るしかないわ』
『お前は!』


『え』
「セリフが飛んだ?」


『テンテン』
『てんま』

「演出?」

『そんなにびっくりした?ま、しょうがないわよね』

『ゆっきー、ナイスアドリブ』

『これで繋がりますね』

『もういいの。アンタも私のことは気にしないで』

「んー…」
「なんだかなぁ」

『う…』


「今日のゲネプロは、不完全燃焼だったかもしれないけど。気持ちを切り替えて、本番までに調子を取り戻そう」

『そうそう。気にしなーい』

『そ…そうですよね』
『うん』
『いつまで辛気臭い顔してんの?』

『うわ』
「どうかした?」
『あ…んー。な、なんでもないよん?』

『ネット?』
『マジでなんでもないって。ゆっきー!あーちょっと…あー!』
『これ…ゲネプロの記事じゃん』
『気にしなくていいから』

『お粗末な舞台デビュー。銀幕の王子に舞台は時期尚早か』
『何それ。ひどい』
『ゆっきーいいから!』
『ま…これが現実ってことでしょ』

『しょんぼり~』

『ま、まぁ。本番は明日だし。まだ時間あるから、だいじょ~ぶ!』
『でも。このままだとダメってことだよね。ミーティングとかやらなくていいの?』

『いい』

『てんま…』

『天馬くん…もう、あきらめちゃったんじゃないよね』
『テンテンがそんなこと、あるわけないじゃん?』
『だといいけど』









『じいちゃん。じいちゃんが言ってた通り、演劇は面白いよ』

『オレ…みんなと一緒にもっと演劇続けたい』


『どこ行ったんだ。あのバカ』

『お前はそれでいいのかよ。幻の楽園なんて嘘つかないで…』

『もっと早く相談すれば』

「ごめん。ジャマしちゃったね」

『いや…』
「少し、いいかな」
『ああ』

「ゲネプロのこと、気にしてるよね」

『あんなひどい失敗…学芸会のあれが人生で最悪だと思ってたけども。まだあったとは』

「あんなのまだまだだよ。私なんて、セリフが飛ぶのは当たり前。最初から最後まで、違う役のセリフを言ってたこともあるし」
『は?』
「全然関係ないシーンで出ちゃったり、転んで主役の衣装を脱がせちゃったり」
『それ…マジで?』

「マジマジ。だから、天馬くんの失敗なんてまだまだだね!」

『よくそれで舞台に立とうって思えたな』
「ハハハ…」

『オレは怖い。明日また舞台に立つのが。また無様をさらすのが』

「でも…私が失敗した時、その公演で一番の笑いが起こったんだよ」
『え?』
「もちろん、失敗が良かったとは言わない。けど、その時のお客さんをお腹の底から笑わせることが出来た。失敗も迷いも、舞台の上でお客さんに見せちゃいけないなんて決まりはないんだよ」

「完璧じゃなくても。最高に笑えたって言ってくれたら、それは最高の舞台になる」
『完璧じゃなくても…最高の舞台』

「私は…ただの大根役者だったけど。それでも、舞台の上に立つ前は…いつだって胸が震えた」

「天馬くん言ってたでしょ?舞台はドラマや映画とは違う、一度きりだって。お客さんも、それを見に来てる」

「一度きりの舞台を。最高の芝居を。時間を」

「だから、完璧な物だけを見せる必要はないんだよ」

「舞台の上で、どんどん成長すればいい」

「自分の全力を、どこまでも更新していける。舞台の上に立つかぎり」

「何度でも、最高の舞台を作れる」

『監督の言葉は、やっぱすげーな』

『学芸会のことを話した時…監督もあいつらも、誰も笑わなかった。オレが完璧な演技を届けたいからアガるんだって、欠点をわかってくれた』

『初めてだったんだ。オレの弱さをあんなふうに受け入れてくれたのは』
「天馬くん」

『コソコソ何してんの?』

『天馬くんとカントクさんがそんなことに』
『テンテン抜け駆けずり~!』
『オレも混ざる~』

『ぼ…ボク、当て馬キャラはちょっと…あ、でもそれはそれでおいしいかもしれないけど』

『はぁ?大体なんでここに…』

『練習するんじゃないの?』

『テンテン。みんなで一緒にやろ』

『うん。本番までに、不安なところなくそう』

『オレも~』

『おいお前ら』

『ほら。やるよ』
『練習練習~』

『あ…』




『で、どこやるの?』

『全部だ。今日中に仕上げるぞ』

『まーたポンコツ役者が張り切ってる』
『なんだとー!?いつまで手ぇ繋いでんだ気色悪ぃ!』
『ニコニコしてたくせに』
『なにを~!?』
『みんなでがんばりましょう』
『えい!えい!お~!』
『お~!』

(誰一人諦めてない。きっとこれで、持ち直せる)



ピーターパンの劇を見て、演劇に惹かれた春組リーダー咲也と学芸会でピーターパンの主演をやるも挫折を経験した夏組リーダー天馬……
ええ…ピーターパンモチーフの題材くる…かな…ネバーランドとか、大人になりたくないとか辺りを使った脚本…皆木先生…
2020/06/16 00:25:09

つぶやきボタン…
父を説得しに行った天馬、無事じゃないけど帰ってきた!
最初に来たとき舞台に立つまでに間があったのは小学生の頃の失敗が理由…
でもそれを克服しようとしてMANKAIカンパニーに来てくれたんだね
思えば幸の服装も夏組のメンバーは誰もバカにしたりしてなかった
天馬が名前を出してくれたおかげで一気にチケットが売れたけど、幸があのGOD座のようなファンサービスをしたりとそれぞれが宣伝活動をしたのも無駄じゃないし今後に繋がっていくよね
次回はいよいよSEASON SPRING & SUMMERの最終回
本番は失敗しない完璧な演技ではなく、失敗も込みで笑ってもらえるような舞台に?
最初に来たとき舞台に立つまでに間があったのは小学生の頃の失敗が理由…
でもそれを克服しようとしてMANKAIカンパニーに来てくれたんだね
思えば幸の服装も夏組のメンバーは誰もバカにしたりしてなかった
天馬が名前を出してくれたおかげで一気にチケットが売れたけど、幸があのGOD座のようなファンサービスをしたりとそれぞれが宣伝活動をしたのも無駄じゃないし今後に繋がっていくよね
次回はいよいよSEASON SPRING & SUMMERの最終回
本番は失敗しない完璧な演技ではなく、失敗も込みで笑ってもらえるような舞台に?
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A3! 11話 感想
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ポニーキャニオン (2020-03-04)
A3ders![佐久間咲也、皇天馬、摂津万里、月岡紬(CV:酒井広大、江口拓也、沢城千春、田丸篤志)]
ポニーキャニオン (2020-02-05)
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春組/夏組
ポニーキャニオン (2020-03-04)
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コメント…2020年春アニメについて
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- 2020年06月21日 19:14
- ID:H.WmZ1RQ0 >>返信コメ
- 今、ドリフ観とるか~\(◎o◎)/
それとも、不味いXテラでも啄んでいるところかな!?
-
- 2020年06月21日 19:19
- ID:SRWnQhDx0 >>返信コメ
- A3(原作含め)シナリオって悪いわけじゃないけど、アイドリッシュと比べるとちょっといまひとつな感じ。ありきたりでご都合主義展開が否めない。
-
- 2020年06月21日 23:00
- ID:.6IrTAs20 >>返信コメ
- 普通に帰ってきて驚いた
そこは、みんなで迎えに行って頑固な父親を説得するんじゃないのか
なんか、こいつ一人のための舞台になってないか
-
- 2020年06月22日 23:57
- ID:gsdlV.C00 >>返信コメ
- 三角の部家が三角だらけでw(使い勝手はいいのか?)🤭絡んできた二人も制服のせいか中性的じゃね?椋くんと幸くんのやり取り良かった😆⤴️💓 本番ガンバれ✊
-
- 2020年06月23日 10:15
- ID:ql1yHS4n0 >>返信コメ
- 糞脚本
-
- 2020年06月24日 20:13
- ID:os7JHGHR0 >>返信コメ
- 管理人さん、今更知る人ぞ知る船場吉兆の会見をネタにするのですか?
-
- 2020年06月24日 21:07
- ID:os7JHGHR0
>>返信コメ
- 1.アイドル版マギだと見れば異色の美味を味わえる。
2.名塚佳織を久々に見たぞ。レヴェースターライト依頼かな?名塚佳織そんは、フルーツバスケット1期の草間の虎娘役
…コメントについて…
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※コメントの書き込みが出来ない等の不具合報告やコメント削除依頼は、コチラより一言頂けると有難いです。
幸って学生服は男用だったな。ネクタイじゃなくてリボンだった気がするが。親どんな人だろ。
ゲネプロって公開直前の通し稽古だっけ?サクラ大戦のドラマCDでもあった。あっちも公開間近なのに立ち位置確認したり色々トラブルあったし、ゲネプロってそういうもん?
チケットって席にもよると思うがいくらなんだろ。
あの双子はこれから追加メンバーになるのか?